C a t s

 
ふと…見慣れぬものが目に付いたものだから、
ついつい“おや?”という顔になってしまったらしく。
声に出てしまったほどもの態度でもなかったが、
それでもさすがは聡い子で、

 「え? あ、これですか?」

丁度操作中だったケータイに下がっていたストラップの先、
仄かに起毛処理がなされてあるらしい、
小さな豆粒のようなマスコットを、
手のひらへと載せ、こちらへ示す小早川であり。

 「昨日、ホームセンターで貰ったんです。」

部の消耗品とか買出しに行った先で、
そういえばウチのタ…猫のブラシが相当古くなってたのを思い出しまして。
あ、なんで思い出したかといえば、
なんでも昨日は平成22年の2月22日で、
2が5つも並んだ日だったのでっていう、
猫のための特設コーナーが出てたんですよね。

 「ブラシを買ったらくじ引きのサービスがあって。
  それで引いたら、これを貰えたんですよう。」

残念賞じゃあないんですよ、一応5等賞でした、と。
春めいた陽気の中、
まろやかにも甘い喜色をその口許へと浮かべた彼で。
日頃大きく見張っている目許を、
それは嬉しそうに細めるお顔が愛らしくて。
こんなお顔を覗かせてくれたのならば、自分もタマには感謝せねばなと思う。
タマというのは、小早川の家で飼われているネコのことで、
小早川の家へお邪魔すると、大概は在宅しており、
お茶だコーヒーだと
忙しそうにしている小早川に代わっての場つなぎのつもりか、
部屋へ通されたこちらと向かい合い、
時に何かしら物言いたげに見上げてきたりもする存在だ。
それが勉強を見るというような堅い会合である時ではなく、
NFLの過去の試合のDVDなぞ観覧するというような、
多分に娯楽と心的融和のほうが主体の逢瀬であるときに限って、
ひょこりと顔を出したそのまま、
部屋に居座ることの多かりしな存在でもあって。
アメフトに造詣が深いのか、
それともただ単に、
(あるじ)である小早川が帰ってきたので擦り寄りたいだけか。
小早川が在宅中はいつだって…
それこそ寝るときまで傍らに寄れように。
間に割り込んでくるんと丸まってみたり、
小早川の膝へでんと乗ってみたり、と、
なかなか手ごわい存在でもあり…ハッ、ああいや、
何をもって“手ごわい”と評したのかは自分でも判らない。
聞き流してくれるとありがたい。
時折、テレビの画面よりもこちらへと向いてくれることが多くなり、
頬を染めつつ、えとえとあのあの…/////と、
含羞みながら何か告げたそうになる小早川の愛らしさへ。
みゃあおうと長鳴きして水をさすこともままあるのだが、
そんなことをすれば、逆に小早川が困ると何故判らぬのだろうな。
挙句、ちょっと外しててと、抱え上げられて部屋から出されてしまうのが、
いっそ気の毒かもしれなくて。

  ………………………… で。

今度は小早川がタマの代わりのように、やや遠慮がちに寄ってくるとか。
小さな手は同じアメフトを嗜んでいるとは思えぬほど不思議と柔らかで、
こんなでは突き指も絶え間なかろうと案じてしまい、
そんな手を取り、まじまじと見下ろせば、
ますますのこと真っ赤になってしまうのがいたく愛らしいとか。
そんなこんなにひたってののち、それではと帰る頃合いになると、
玄関先で待ち構えていた小さなネコ殿、
その口許へ…いつの間にもぎ取ったのか、
こちらの上着のボタンなんぞを咥えているのを見せてみて。
取り返そうと手を伸べれば、なんと“デビルバットゴースト”を、
ネコの分際で披露する恐ろしさだったりするものだから…。

 「…あの、進さん?」

こんなこと、小早川に訊いても判るものなのだろうか。
飼い主とはいえ口が利き合えるわけでもなかろうに。
だが、あの態度はやはり……。

  あのネコ殿は、
  もしかすると…小早川に近寄るなと、
  保護者のような警戒をしての、
  こちらへ威嚇を続けているのだろうか。

小早川と交際がしたいなら、
まずは自分へ話を通せと、そう言いたくてのあの態度なら、
なるほど、順を追わなかったこちらも悪いのやも知れぬ。
ならば、

  「小早川。」
  「ははは、はい。////////」
  「今日はタマに挨拶をしに行っても、構いはしないのだろうか。」
  「はい?」

今日は、ここんとこの厳寒を大きく飛び越えて、
四月並みの暖かさだったっていいますからねぇ…。





  〜Fine〜  10.02.23.


  *なんやこれ。(笑)
   いえね、ネコの日だったんで
   別のお部屋でのお話しか考えてなかったのですが、
   そういやこちらにも居たなぁと今頃に思い出しまして。
   進さんのモノローグものなんて初めて書いたので、
   途中から某じゃっくばうあーになりそうで大変でした。
(大笑)

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